先にゼミの学生が連絡システムをLINEで作ってしまったという話を紹介した。
 今回もLINEの話。そこから課題解決学習のこと。

 大学から教科書販売についての報せがあり、それを学生に伝えてほしいとの要請があった。
 そうした報せは、僕のボックスにプリントが入っているかメールで送られてくる。両者の違いは、発信者の重要性の認識の違いによるもののようだ。重要なものは紙で配られ、そうでないものはメールということになっているらしい。教科書販売は「重要」と判断されたようなので、紙で来た。

 紙を受け取った僕はたまたまやってきたゼミ長にそれを見せ、「ゼミのみんなに伝えてもらえないか」と頼んだのだ。それは僕自身が書類提出に没頭していたので、メールを書く手間を惜しんだものだった。
 僕は書類作成を続け、ゼミ長君はスマホをいじっている。
 僕の頼みを気安く引き受けてくれたにも関わらず、メールを書いている様子はない。

 そんな時に僕のスマホが受信音を発した。
 LINEだ。それを開く。
 するとそこには依頼した書類の写真があるではないか。
 発信者はゼミ長君だ。
 ほぼ同時に、いろいろなキャラクターのカラフルなスタンプが送られてくる。

 「君が送ってくれたのかい?」
 「先生が送ってくれって言ったでしょ?」
 「そうだけど、写真かい?」
 「書き写すとミスするかもしれないし・・・」
 「そうだね」
 「字で送るとなかなか読んでくれないし・・・」
 「そうだね」

 僕は思考が停止している。それをゼミ長君が誤解してくれなければ良いのだが。
 「・・・みんなが送ってきたスタンプは・・・」
 「ありがとうってことじゃないかな。読んで、ちゃんと答えてくれたってことですよ」
 「そういうことか。なるほど」

 情報をどう送るかということについて、彼は僕より達人であると認めざるを得ない。

 しかし僕は、プリントを見た彼が大切な所を文字で書き写して送るのだとばかり思っていた。さらに「ここで彼の文章力が試せるな」となどと秘かに期待もしていたのだ。
 それをスルーしてしまうとは・・・。
 彼の頭の中には、プリントをコピーして折りたたみ、封筒にあて名を書いて、切手を貼って送ろうなどとい選択肢はあるまい。そんな化石は、ゼミ長だけでなくゼミの全員も思い至らないだろう。

 情報を伝えるという課題に対して、彼らは僕よりも先を行っている。
 ならば僕もそれに見習おうと思いつつ、愕然とする。

 僕たちが彼らに求めていると思い込んでいた能力は、とっくに実現されていているのではないか。彼らは実戦で僕たちをリードしているのではないか。彼らの力を過小評価しているのではないか。
 要するに時代遅れの紙人間が我々であって、紙のいらない状況を紙で表せと無理強いしているのではないか。
 僕たちが学ばなくてはならないのかもしれない